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COLUMN

コンサルティングキャリアにおける専門性のバリエーション - インダストリー編 ③(電力・ガス・エネルギー・素材・化学)
-将来にわたって武器になる専門性の確立-

-国家基盤を再定義し、グリーン社会への変革を含めた新たな事業・社会の創造をリードするコンサルティングを展開-

以前のコラム(コンサルティングキャリアにおける専門性のバリエーション - インダストリー編 ①(製造業)コンサルティングキャリアにおける専門性のバリエーション - インダストリー編 ②(テクノロジー・メディア・通信))に続き、今回は、日本の産業界の最上流に位置する「電力・ガス・エネルギー・素材・化学セクター」について説明したいと思います。

はじめに:なぜ今、「電力・ガス・エネルギー」領域なのか
世界的なカーボンニュートラル(CN)へのシフト、地政学リスクに伴うエネルギー安保の再定義、そして生成AIによる材料開発の破壊的イノベーションなど、まさに今、電力・ガス・石油・素材・化学という「装置産業」の大手企業が、かつてないスピードで変革に舵を切っています。
かつてのこの領域は「保守的で変化が遅い」と評されることもありましたが、現在はコンサルティングファームにとって、GX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)が高度に融合する注力マーケットとなっており、本コラムでは、この巨大なインダストリーを「電力・ガス」「石油・天然ガス(エネルギー)」「素材・化学」の3つのサブセクターに分けて、少し深掘りをしたいと思います。

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1. 電力・ガス:分散型・脱炭素型インフラへの構造改革
電力・ガスセクターは、日本の全CO2排出量の約4割を占めるエネルギー転換の「本丸」の業界になっております。従来の「大規模集中電源(火力・原子力)から一方的に送電する」モデルから、「多種多様な電源が双方向につながる」複雑なネットワークモデルへの移行が進んできた業界でもあります。

【主要なプレーヤー】
東京電力HD、関西電力、中部電力、JERA、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、電源開発(J-POWER)、新電力(ENEOS、SBパワー等)

業界が直面する「3つの壁」
1.脱炭素化のコストと安定供給の両立: 再生可能エネルギーは天候に左右されるため、調整力としての蓄電池や水素発電の導入検討も進んでおりますが、これには莫大な投資が必要です。
2.市場競争の激化: 電力・ガスの小売全面自由化以降、異業種(通信、鉄道、石油等)とのシェア争いが常態化し、単なる「kWh(電力量)」の切り売りでは収益を維持できなくなっています。
3.インフラの老朽化と労働力不足: 高度経済成長期に整備された設備(送配電網やガス導管等)の更新時期が到来し、一方で保守を担う熟練技術者の不足が深刻化しています。

コンサルティングプロジェクトの最前線
コンサルティングファームとしては、これらの課題に対し、戦略からテクノロジー実装まで一貫した支援を行っています。
VPP(仮想発電所)およびDER(分散型エネルギーリソース)マネジメント: 家庭用蓄電池、EV、工場の自家発電設備などをIoTでつなぎ、一つの巨大な発電所のように機能させるVPPの構築に対し、需給を予測するAIアルゴリズムの実装支援や、卸電力市場(JEPX)との取引最適化ロジックの構築など、テクノロジー活用の側面を中心に取り組みを推進しております。
エネルギー・アズ・ア・サービス(EaaS)戦略: 「電気を売る」のではなく「快適な空調環境や省エネを実現する価値」を売るサブスクリプションモデルへの転換、そこにAIによる需要予測も絡めた事業展開も始まっています。B2B向けには、工場の屋根に太陽光パネルを無償設置し、発電した電気を供給する「PPAモデル」の事業採算性評価や営業戦略策定なども支援しています。
次世代インフラ保守(スマートメンテナンス): ドローンや画像解析AI、スマートメータデータを活用し、故障の予兆を検知する「予知保全」への移行も支えています。現場の業務フロー刷新(BPR)から、アセットマネジメントシステムの導入、デジタルツインを用いた設備投資計画の最適化まで広く手掛けています。
CX(顧客体験)変革とライフスタイル・プラットフォームへの転換: 電気・ガスの販売だけでは収益成長が限られる中、スマートホーム、家電修理、高齢者見守り、EV充電など、家庭のあらゆるニーズをワンストップで解決する「生活基盤サービス」への業態転換も支援しています。この領域では、通信業界や小売業界で培われたCRM、LTV(顧客生涯価値)向上のノウハウやメンバーも絡めた取り組みも行っております。

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2. 石油・天然ガス:化石燃料からの「トランジション」という業界史上最大の難題
石油セクターは、脱炭素の波を最もダイレクトに受ける業界です。しかし、彼らは膨大なキャッシュ、広大な製油所アセット、そして全国に張り巡らされたSS(サービスステーション)網という、トランジションのための強力な武器を持っているのも事実で、それらを活かしたビジネスモデルの拡大に向けた取り組みを積極的に推進しております。

【主要なプレーヤー】 ENEOS HD、出光興産、コスモエネルギーHD、INPEX、富士石油ほか

「石油会社」という定義の解体と再構築
現在、大手石油元売り各社は「総合エネルギー・素材企業」への進化を掲げており、原油を精製して販売するモデルから、水素、アンモニア、合成燃料(e-fuel)、さらには高機能化学品へとポートフォリオをシフトさせる、壮大な「事業ポートフォリオ変革(再定義)」の最中にあります。
石油業界の変革は、「化石燃料のクリーン化」と「非化石事業への進出」の二段構えとして捉えることができるかと思います。

主要なコンサルティングアジェンダ
SAF(持続可能な航空燃料)のサプライチェーン構築: 航空業界の脱炭素化に不可欠なSAFの製造・流通体制の構築を進めております。廃食油(UCO)の回収スキームから、製油所の一部をSAF製造ラインへ転換する技術検討、そして国際的な認証(ISCCなど)の取得支援まで、バリューチェーン全体をカバーするプロジェクトが出てきております。
カーボンリサイクルとCCUS(CO2回収・貯留・利用): 排出されたCO2を「ゴミ」ではなく「資源」と捉える取り組みも始まっています。火力発電所や工場から出るCO2を回収し、地中に埋める、あるいは水素と反応させて燃料を作るなど、この領域では、技術的なフィージビリティスタディに加え、カーボンプライシングを見据えた経済性評価も含まれる取り組みが進行しています。
SS(サービスステーション)のアセット・トランスフォーメーション: 全国に約3万ヶ所存在するガソリンスタンドを、どう生き残らせるか/活用するか、という点も重要な経営テーマです。EV充電、ドローンの離着陸拠点、ラストワンマイルの物流拠点、あるいはカフェやコインランドリーを併設したコミュニティハブなど、立地条件に応じた「マイクロ・ビジネスモデル」の策定の検討も進んでおります。私たちの日常生活に馴染みのある当該領域の取り組みですが、例えばEV充電ビジネスを例に取ると、大手3社(ENEOS HD、出光興産、コスモエネルギーHD)の中でもENEOS HDの大規模ネットワークと資金力を活かした事業展開が注目されており、自社ブランドを軸とした事業展開や、BtoCを意識した柔軟なサービスレベル設計、他社を巻き込んだエコシステム醸成への展開も含め、水面下では様々な企画が実行に移されています。

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3. 素材・化学:サイエンスとデジタルの融合による「マテリアル革命」
素材・化学業界は、日本の製造業における「最強の黒衣」とも言える業界かと思います。半導体材料、車載用リチウムイオン電池部材、航空機用カーボンファイバーなど、世界シェアを独占する高付加価値製品が多数存在している業界です。

【主要なプレーヤー】 三菱ケミカルグループ、住友化学、旭化成、富士フイルムHD、信越化学工業、日本製鉄、神戸製鋼所、三菱マテリアル、東レ、帝人、三井化学ほか

開発スタイルのパラダイムシフト:マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の衝撃
これまで、新素材の開発には10年、20年という歳月と、研究者の「経験と勘」が必要でしたが、AIと計算科学を駆使する “マテリアルズ・インフォマティクス(MI)” の登場により、そのスピードは劇的に変化する兆しを見せております。

主要なコンサルティングアジェンダ
R&D DX(研究開発のデジタル変革): MIの導入だけでなく、実験データの自動収集(自動ラボ)、論文データの自然言語処理による解析、研究者のナレッジシェアプラットフォームの構築など、研究開発組織そのものをデジタルネイティブに変革する取り組みがはじまっています。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)の仕組み作り: 「プラスチックは悪」という風潮を「プラスチックは循環資源」という常識へ変える取り組みです。ケミカルリサイクル技術の事業化、製品設計段階でのリサイクル性評価(Design for Recycling)、ブロックチェーンを用いた再生材のトレーサビリティ管理など、社会システム全体を設計するプロジェクトも走っております。
グローバル経営管理の高度化とESG経営: 数千種類に及ぶ製品群、世界中に広がる拠点、そして製品ごとのCO2排出量(LCA:ライフサイクルアセスメント)をリアルタイムで把握・管理し、経営判断に繋げるためのデータ基盤構築に向けた取り組みも走っております。海外、特に欧州の「環境規制」に対応するためのコンプライアンス戦略を織り込んだ仕組みづくりなども、グローバル展開する日系企業にとっては経営の最優先事項となっており、大きな取り組みになってきております。

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クロスセクター:業界の垣根を越えた共創事例
最後に、セクター横断的なコラボレーションを通じて企業がどのような「非連続な成長」を描いているのか、いくつかの事例に触れたいと思います。

① 「電力 × 自動車」:V2G(Vehicle to Grid)の実現
事例: 中部電力、三菱自動車、三菱商事によるEVの蓄電池活用実証
内容: EVを「走る蓄電池」と見なし、電力が余っている時に充電し、不足している時に車から系統(電網)へ電力を戻す仕組み
コンサルティングの役割: 自動車メーカーと電力会社の利益相反を調整し、ユーザーへのインセンティブ設計や、電力需給調整市場への入札プラットフォームの要件定義などを実施
② 「石油・化学 × 航空」:SAF(持続可能な航空燃料)エコシステム
事例: ENEOS、三菱商事、日揮HD、ANA、JALなどによる「ACT FOR SKY」
内容: 日本国内でのSAFの商用化・普及を目指す有志連合。廃食油の回収から精製、航空機への給油までを一気通貫で構築
コンサルティングの役割: 異なる業界の企業がデータを共有するためのデータプラットフォーム構築や、政府への政策提言(ルールの標準化)、SAFの付加価値を可視化するトレーサビリティシステムの導入
③ 「化学 × 小売・消費財」:プラスチック資源循環のプラットフォーム
事例: 三井化学、花王、ライオンなどによる、つめかえ容器のリサイクル実証
内容: 使用済みの製品容器を回収し、再び化学原料(モノマー)に戻して新品の容器を作る「水平リサイクル」
コンサルティングの役割: 消費者の行動変容を促すマーケティング戦略から、効率的な回収物流(リバース・ロジスティクス)の設計、環境価値をクレジット化するビジネスモデルの策定
④ 「エネルギー × 不動産・建設」:スマートシティ・街づくり
事例: 東京ガスと三井不動産による日本橋エリアの「スマートエネルギーマネジメント」
内容: 都市再開発において、地域全体で熱・電気を融通し合い、災害時のBCP(事業継続計画)と省エネを両立
コンサルティングの役割: 都市OSの設計、デベロッパー・エネルギー会社の合弁会社設立支援、スマートビルディングのデータ活用によるテナント満足度の向上

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この業界ならではの醍醐味
電力・ガス・エネルギー・素材・化学業界は、「古いものを守る」という印象が強かったのはひと昔前までで、現在の方向性としては「基盤を活かして、全く新しい価値(グリーン・デジタル)を上乗せする」という方向に進んでいます。

前述の事例が示す通り、現在のコンサルティングアジェンダは「特定の業界知識」だけでは解けなくなっており、例えば、「電力会社の知見を持ちながら、自動車業界の次世代戦略に入っていく」、「化学のR&Dプロセスを理解しつつ、小売業のサービス企画に関わっていく」といった、クロスセクターの経験ができる領域になります。

コンサルティング経験者だけでなく、電力・ガス・エネルギー・素材・化学業界にいらっしゃるコンサルティング未経験者の方も含め、上記のような特徴を持つ領域でのキャリアを志向される方は、是非、ご自身の現在の経験・専門性を軸に、どの隣接領域へ染み出していくべきかというご相談も投げかけていただければと思います。

多くの方のキャリアビジョンをより具体化する一助となれば幸いです。