企業自身の業績や業界全体の好不調だけではなく、企業によっては外部要因でもある景気変動や技術革新といったマーケットサイドの要因や、求職者サイドの志向や心情にも左右されるのが転職マーケットになりますので、長い歴史の中で、数度の大きな浮き沈みや、短サイクルで繰り返される小さな需給バランスの変動は常に存在してきました。
一歩引いた目線で、現在の転職マーケットの概観を整理してみたいと思います。
<サマリー>
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・コロナ禍が実質的に終わり、有効求人倍率は回復傾向
・バブル期に匹敵する水準に到達しつつある状況
・転職においては、「IT・通信」「コンサルティング」職種での人材ひっ迫が顕著
・大手企業は引き続き、新卒採用も積極的に実施
・この15年での大卒人気企業の顔ぶれは、商社は引き続き人気、金融はやや後退、コンサルティングが台頭
・出生数もこの20年で30%減少しており、将来的な需給バランスに大きな影響が出ることは必至
・転職回数は3回までが安心水準(転職年齢としては、40代から壁を感じるケースが増加)
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<有効求人倍率、新規求人倍率>
(四半期平均、季調値 1963年第1四半期~2025年第1四半期)

※出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構HPより
2000年以降、転職マーケットは下記のような大きな浮き沈みを経験してきました。
・2000年初頭 :ITバブル崩壊の影響で求人倍率は低下
・2003年 :景気回復により求人倍率が回復
・2009年 :リーマンショックの影響で求人倍率が急落
・2011年 :景気回復に伴い、求人倍率は再び上昇
・2020年 :新型コロナウイルスの影響で求人倍率が低下
・2022年 :経済活動の再開により、求人倍率が回復基調
現在の水準は、1990年前後以来の水準に到達しており、バブル期に匹敵する水準です。
マーケット全体で見ると、コロナ禍による下げ幅はリーマンショック時と同様のインパクトはあったものの、経済自体が痛んだわけではなかったこともあり、早々に回復基調に戻して現在に至っています。
日頃の感覚としても人手不足感を感じることもあるかと思いますが、数字で見ても、概ね、違和感はないのではないでしょうか。
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<職種別 転職求人倍率:2024年>
次に、職種ごとにやや異なる傾向がありますので、転職マーケットにおける職種ごとの概観も見てみたいと思います。
職種分類 | 転職求人倍率 |
エンジニア(IT・通信) | 14.15倍 |
エンジニア(機械・電気) | 7.23倍 |
専門職(建築・不動産) | 6.61倍 |
専門職(コンサル・金融) | 7.24倍 |
営業 | 3.53倍 |
企画・管理 | 4.11倍 |
クリエイター | 1.38倍 |
販売・サービス | 0.86倍 |
事務・アシスタント | 0.57倍 |
※出典:転職求人倍率レポート(doda調査、2024年12月時点)
好調な企業業績に加え、テクノロジーの進化も相まって、エンジニアリング領域では非常に高い求人倍率となっており、コンサルティングなども含めて、技術者需要が高まっている状況です。
一方、事務・アシスタント職では採用人数に比して相対的に求職者数が多い状況となっております。
人手不足の背景や理由としては、企業のビジネスの拡大、新たなテクノロジーの台頭、人口減少、特定スキルへの強いニーズなど、個別事情も含めて多様な要因が組み合わさっていると考えていますが、時代に即した “付加価値” を提供できる人財になることが、より強く求められるようになってきているのではないかと感じています。
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<就職人気企業ランキング>
次に、求職者目線で個別企業に目を向けてみると、10-15年のスパンで求職者側の志向の変化も出てきている状況です。
2010年 東大・京大生 就職人気企業ランキング(推定)
順位 | 企業名 | 業種 |
1 | 三菱商事 | 総合商社 |
2 | 三井物産 | 総合商社 |
3 | 東京海上日動火災保険 | 保険 |
4 | 三菱東京UFJ銀行 | 銀行 |
5 | 日本銀行 | 中央銀行 |
6 | 野村総合研究所 | シンクタンク |
7 | 電通 | 広告 |
8 | NHK | 放送 |
9 | トヨタ自動車 | 自動車 |
10 | 日立製作所 | 電機・重電 |
出典:東洋経済オンライン(2009年)
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2024年 東大・京大生 就職人気企業ランキング(推定)
順位 | 企業名 | 業種 | 2010年時点の順位 |
1 | アクセンチュア | コンサルティング | 圏外 |
2 | 野村総合研究所 | シンクタンク | 6位 |
3 | 三井物産 | 総合商社 | 2位 |
4 | PwCコンサルティング | コンサルティング | 圏外 |
5 | ボストン コンサルティング グループ | コンサルティング | 圏外 |
6 | 三菱商事 | 総合商社 | 1位 |
7 | NTTデータ | ITサービス | 圏外 |
8 | ソニーグループ | 電機・エンターテインメント | 圏外 |
9 | 伊藤忠商事 | 総合商社 | 圏外 |
10 | デロイト トーマツ コンサルティング | コンサルティング | 圏外 |
出典:ワンキャリア(2023年) prtimes.jp+3onecareer.co.jp+3onecareer.jp+3
参考までに、一部の有名大学での就職人気ランキングを例に取ってみると、グローバル展開している大手商社は変わらず人気を博している一方で、金融機関はやや存在感が薄くなってきているという側面も出てきています。
そこに、グローバルコンサルティングファームが割って入ってきており、その時々の時代背景や社会の風潮も影響しているかと思いますが、総じて、手に職(技術面だけでなく専門性という観点)を付ける、グローバル環境で(当たり前に)活躍する、という要素が強まってきているとも言えるかと思います。
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<新卒採用人数ランキング>
新卒採用に限って見ると、採用人数トップ20社の顔ぶれも変わってきており、製造業や金融機関から、小売業やアウトソーシングなどのサービス業へ存在感がシフトしてきています。
また、トップ企業の採用人数が全体的に増加傾向にあり、サービス業を中心に人手不足が深刻化しており、積極的な新卒採用で人材確保を図る企業が増えているのではないかと考えています。
2010年 新卒採用人数 トップ20企業
順位 | 企業名 | 採用人数(推定) |
1 | トヨタ自動車 | 約1,500人 |
2 | 三菱UFJ銀行 | 約1,200人 |
3 | NTTドコモ | 約1,100人 |
4 | 日本郵政グループ | 約1,000人 |
5 | 三井住友銀行 | 約950人 |
6 | みずほフィナンシャルグループ | 約900人 |
7 | ソニー | 約850人 |
8 | パナソニック | 約800人 |
9 | 日立製作所 | 約750人 |
10 | 富士通 | 約700人 |
11 | NEC | 約650人 |
12 | 東芝 | 約600人 |
13 | シャープ | 約550人 |
14 | ホンダ | 約500人 |
15 | 日産自動車 | 約450人 |
16 | キヤノン | 約400人 |
17 | リコー | 約350人 |
18 | 三菱電機 | 約300人 |
19 | 大和ハウス工業 | 約250人 |
20 | JFEスチール | 約200人 |
※当社調べ
注:2010年のデータは推定値であり、正確な数値は公表されていない場合があります。
2024年 新卒採用人数 トップ20企業
順位 | 企業名 | 採用人数(推定) | 2010年時点の順位 |
1 | イオングループ | 約2,900人 | 圏外 |
2 | アウトソーシング | 約2,650人 | 圏外 |
3 | JFEグループ | 約1,800人 | 20位 ※ |
4 | 日本製鉄グループ | 約1,520人 | 圏外 |
5 | ニチイグループ | 約1,505人 | 圏外 |
6 | トラスト・テック・グループ | 約1,400人 | 圏外 |
7 | 大和ハウスグループ | 約1,387人 | 19位 ※ |
8 | JR東日本 | 約1,210人 | 圏外 |
9 | ALSOKグループ | 約1,200人 | 圏外 |
10 | ノジマグループ | 約1,190人 | 圏外 |
11 | 三菱電機 | 約880人 | 18位 |
12 | 富士通 | 約750人 | 10位 |
13 | 東京海上日動火災保険 | 約639人 | 圏外 |
14 | 三井住友銀行 | 約600人 | 5位 |
15 | りそなホールディングス | 約565人 | 圏外 |
16 | みずほフィナンシャルグループ | 約550人 | 6位 |
17 | 大和証券グループ | 約450人 | 圏外 |
18 | NTTデータ | 約483人 | 圏外 |
19 | 大塚商会 | 約350人 | 圏外 |
20 | NECソリューションイノベータ | 約349人 | 圏外 |
※当社調べ
注:2024年のデータは推定値であり、正確な数値は公表されていない場合があります。
※関連グループとしての順位を含む
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<出生数、合計特殊出生数の推移>
既にご存じの通り、日本の人口は減少を続けており、出生数で見ると、この20年で約100万人/年から約70万人/年へ、約30%減少してきています。
その状況の中で、前述の新卒採用人数トップ20社の合計は、人口動態に反して約1.6倍(約14,000人⇒約22,000人)に拡大しており、この傾向が続くと、新卒採用の母数が大きく減少を続ける中で採用数は拡大していく、という事態が広がっていく可能性も想定されます。

出典:厚生労働省 「出生数、合計特殊出生率の推移」
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<転職年齢/転職回数>
採用担当者側から見ると、当然ながら、求職者の転職回数は気になる点であり、求職者の年齢別に気になる転職回数水準は異なるものの、一部のアンケートによると、約3割から半数弱の採用担当者においては、求職者が20代の場合は2回以上から、30代だと3回以上から、40代だと4回以上から、気になるという実態も見られることから、若い時期から、中長期目線でのキャリア形成の重要性は言わずもがなということかと思います。

※出典:パーソルキャリア株式会社「転職に関するアンケート」より当社にて作成
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最後に:
ひと昔前と比較すると、終身雇用ではなく転職を通じてキャリアアップの実現や、キャリアチェンジを通じた自己実現は、社会にも認知される状態になったかと考えています。
(昔は社会人デビュー時点でキャリアの大部分が決まってしまう要素が大きかったが、今では、時間と経験を重ねる中で「ありたいキャリア」を築きやすい環境が整ってきました)
裏を返すと、自社だけで通用するスキル・経験ではなく、他社でも通用する実力を身に着けていくという目線が重要になってきており、しっかりと軸を持ったキャリア形成が鍵となってきていると感じています。
足元のマーケットにおいては人手不足感が非常に強いものの、私どもが日々、企業側の採用責任者や現場の管理職層と接している中では、転職のハードルは意外とそこまで大きく下がっていない印象を受けており、加えて、欧米ほどJOB型に振り切っていない状況のため、年齢や転職回数への懸念も引き続き存在し続けていくものだと考えています。
大きな採用トレンドと共に、当然ながら、今は若手を積極採用したい、特定のスキル領域を強化したい、などの細かいニーズ変化は常にありますので、直近の各社・各部門のニーズと、これまでのご経験・今後の志向を踏まえて、適切なキャリア形成のアドバイスを実施させていただきますので、気兼ねなくご相談をいただければと思います。