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COLUMN

「PBR1倍割れ」からの脱却と次なるフェーズ。企業価値向上を牽引するコンサルティングの現在地

第1章:今、なぜ「企業価値向上」がコンサルの至上命題なのか?

今回のコラムでは、日本企業のPBRの実情や、そこに対するコンサルティングファームの支援について触れていきたいと思います。現役のコンサルタントとしてまさにこういったアジェンダに向き合っている方々など、詳しい方には釈迦に説法な内容も多く含まれるかと思いますが、これからコンサルティング業界を目指す方や、近年の日本企業を取り巻く変革のトレンドを改めて整理したい方にとって、全体像を掴むための見取り図としてお役立ていただければ幸いです。

昨今、経営トップがコンサルタントに求める「最上位のアジェンダ」の潮目に変化が見られます。コンサルティングにおいて、「いかに売上を上げるか」「いかにコストを削るか」といった財務成果(PLの改善)は、現在も変わらず重要なテーマですが、非財務領域も含め「企業価値向上」に繋がる全社横断的な変革により力を入れるコンサルティングファームが増えています。その背景にあるのが、多くの日本企業の経営層が頭を悩ませている「PBRの低さ」という深刻な課題です。

PBR1倍割れが「今後事業継続して得られる価値よりも、会社が解散した場合に株主に分配される金額が高いと評価されてしまっている」と宣告されている状態とも言われる中で、2022年から2023年にかけて日経平均採用銘柄のPBRは1.1倍台を推移しており、危機的な水準でした。

その後は2023年の東証からの「PBR1倍割れ改善要請」以降、日本企業の株主還元やポートフォリオ見直しは加速し、直近では日経平均採用銘柄のPBRが1.8倍水準に達するなど、市場には確かなモメンタムが生まれつつあります。

とはいえ、手放しで喜べる状況ではなく、米国や欧州の背中はまだ遠いのが現実です。日本のプライム市場全体を見渡せば、改善が進んだとはいえ、依然として約30%の企業がPBR1倍を割ったまま取り残されていると言われています(米国は約5%)。

現在の日本市場は、いち早く企業価値向上へと舵を切って評価される企業と、過去の延長線上でもがく1倍割れ企業との間での二極化が進行している、変革の通過点ともいえる状況です。
 

第2章:日本企業を縛り付けてきた「低PBR」3つの構造的要因

企業価値とは、企業が持つ「現在価値」と「将来価値」を併せたものであり、「PBR」はこれを測る指標の1つです。「PBR=ROE×PER」という方程式を前提に、日本企業が長らく低PBRから抜け出せなかった主な要因を3つの視点に整理しました。

1. ROE(資本効率)の低迷:デフレマインドとキャッシュの貯め込み
日本企業は長引くデフレ経済の中で、倒産リスクに備えて内部留保をひたすら続けてきたと言われています。純資産(分母)がどんどん膨らむ一方で、国内市場の縮小もあり、それに見合うだけの利益(分子)を稼ぎ出すことが難しかったと指摘されています。また、不採算事業の売却といった構造改革を先送りにした結果、資本効率(ROE)が慢性的に低い状態に陥っていたと見られています。

2. PER(期待値)の低迷:「縮小均衡」による投資控えと、失われた夢
PERは、市場からの未来の成長への期待値です。長引くデフレ経済は投資意欲を減退させ、企業は「現状維持」と「コスト削減」に走りやすかったと言われています。未来の種まきである研究開発や、ソフトウェア、人的資本などの「目に見えない無形資産」への投資が過小に抑え込まれました。結果として「今の利益は出ているが、未来の成長(夢)がない」と見なされ、万年割安な低PERに据え置かれてしまったと指摘されています。

3. ガバナンスの機能不全:「株式の持ち合い」と身内意識
上記の「低ROE」と「低PER」が放置されてしまった理由の一つとして、日本特有の「株式の持ち合い」が挙げられます。経営陣にとっては「身内」が安定株主として守ってくれるため、資本効率が悪くても経営責任を厳しく追及されにくい環境がありました。この特有のガバナンスが市場との対話を遠ざけ、低PBRが蔓延する状況を固定化させてしまったとも考えられています。
 

第3章:市場のモメンタムを取り巻く5つの環境要因

第2章で触れたような構造的課題により低迷していた日本企業ですが、直近では全体として力強い右肩上がりの軌道を描き始めています。

長年の呪縛が解け始めた背景には、市場の変化と相互に影響し合う「5つの環境要因」が存在すると考えられます。卵が先か鶏が先か、モメンタムと環境変化が連鎖して進む中で、現在の市場を形作る主な要素を整理しました。

1. 東証による「PBR1倍割れ」の改善要請(変革のトリガー)
明らかに市場の流れを変えた最大のトリガーと言えるのが、東京証券取引所による改善要請です。これにより具体策の開示と実行が強く求められるようになり、経営陣の意識が劇的に変化しました。

2. 記録的な株主還元の拡大
自社株買いや増配が過去最大規模で実施されています。自己資本の圧縮によるROE改善が、PBRの押し上げに直結しています。

3. 政策保有株式(持ち合い株)の積極的な解消
ガバナンス・コードの改訂などを背景に、持ち合い株の売却が急加速。得た資金を成長投資や株主還元に回すことで、資本効率の改善を図る企業が増加しています。

4. インフレ経済への移行と「稼ぐ力」の向上
インフレ基調への移行で価格転嫁が進みやすくなり、日本企業全体の利益水準や本業における「稼ぐ力」が向上していると見られます。

5. 海外投資家からの再評価
東証の要請やガバナンス改革、株主還元策の強化を海外投資家が評価し、日本株へ資金を振り向けたことが、市場全体のバリュエーションを押し上げています。
 

第4章:複雑化する経営課題に切り込む。コンサルティングファームの真の介在価値

企業価値向上においてコンサルティングファームが必要とされる理由は、企業が自力では実現しにくい変革を「短期間で・体系的に・実行まで伴走できる点」にあります。現代はDX、AI、人材不足など環境変化が激しいため、変革の速度を上げる存在として需要が高まっています。

1. 経営課題を「構造化」できる
売上や利益率の低迷、組織の硬直化、DXの遅れ、M&A後のシナジー不足など、課題は複雑に絡み合っています。ファームは市場・組織・財務・ITなどを横断して分析し、経営陣だけでは見えにくい「本当のボトルネック」を可視化します。

2. 外部視点や他社事例・成功パターンが提供できる
社内政治や「昔からこうしている」といった壁に対し、利害関係の少ない外部の客観的視点で提言できます。また、DX成功例や組織改革、コスト削減の定石など、単独企業では得られない「集合知」を提供可能です。

3. 社内では不足しがちな「変革推進力」を補える
重要なのは戦略の実行ですが、現場の抵抗や部門間対立で頓挫しがちです。コンサルはPMOやチェンジマネジメントを通じて、泥臭く変革を前進させる役割を担います。

4. 経営陣が「腹を括る材料」になる
人員削減や事業売却など、痛みを伴う判断には意思決定の後押しが必要です。第三者としての専門的な分析は、取締役会などでも「客観的な評価」として重要視されます。

5. 短期間で専門人材を投入できる
戦略、DX、データ分析、M&Aなど、自社で確保するのが難しい高度な専門人材を、ファームであれば短期間でチームとして組成し機動力高く投入できます。

6. 投資家目線の企業価値向上に強い
近年は業務改善にとどまらず、ROICや資本効率など「市場からどう評価されるか」に踏み込み、「資本市場から高く評価される会社にする」ための支援が増えています。
 

第5章:まとめ

ひと昔前から組織改革やサステナビリティといった非財務のプロジェクトはありましたが、それらは「人事部」や「CSR部門」などの個別最適のプロジェクトになりがちでした。しかし今は、東証の要請や物言う株主の圧力により、これらを「全社的な企業価値(PBR)に直結させること」が、CEOや取締役会が直接コンサルに依頼する最重要テーマに格上げされました。

ファーム側もこういった「非財務資本を企業価値に結びつける」という極めて難易度の高い領域に、チームの垣根を越えたコラボレーションの促進や、エース級人材の投入、専門組織(価値創造チームやESG特化チームなど)の新設、これまでと違った人材の採用など積極的なチャレンジを行い自社の大きな差別化ポイントとしてアピールするようになっています。

第3章で触れたように、ここ最近の日本企業のPBR上昇は「自社株買い」や「持ち合い株の解消」といった財務的なアプローチが大きく寄与しています。

しかし、こうした手元の資産を活用した施策にはいずれ限界が来ます。中長期的にPBRを継続して高めていくためには、財務施策と合わせて、市場からの期待値であるPERを上げていく本質的な「稼ぐ力」の強化と「未来の成長ストーリー」の構築が必要になります。

こうした本質的な変革において、企業自前で完結させることが難しいケースもあり、今後も変革のパートナーとしてコンサルティングファームの力が必要となることも多いでしょう。

本質的な企業価値向上に携わりたい、コンサルタントとして日本経済の再興に貢献したいという想いをお持ちの方のご相談も大歓迎ですので、お気軽に当社にご相談ください。